「あとがき」より抜粋
私たちが被災地に入らせていただいていいのだろうか、一体何ができるのだろうか、と不安とおそれを抱きながら旅に出ましたが、そんな私たちを、苦難と逆境のさなかにありながら、受け入れ、励ましてくださったのは津波で家を流され、中には家族や知り合いを亡くされた被災されたお一人お一人でした。
20日に満たない小さな旅の中で、みちのくの被災地は私たちの中で聖地になりました。巡礼の旅の「同行ふたり」は、被災された方がたを心に抱いた旅でした。
訪ねた避難所や仮設住宅で、被災された方がたが語ってくださった言葉を、忘れることができません。日常と何も変わらないかのようなおもむきで、静かに淡々と体験を語られる一語一語の重さにぬかずき、語られた言葉は宝物のように私の中に沁み込んでいきました。それらを一つ一つ思い出しながら、記録のかたちで文字に記しました。
私たちのために、遠くからきてくださって、ありがとうございます。
私たちは、これからも、なんとか生きて行きます。
どうか、私たちのことを忘れないでください。
そう話された女性の言葉を反すうしています。
(中略)
「死者も大切だけれど、生きている私たちは生活の手立てを失い、収入の道を断たれました。生きている私たちも助けてほしい」
通りすがりの旅人である私にまでこれからの不安を訴えてこられた方の悲痛な叫びが耳に残っています。
私たちは、あなたたちのことをいつまでも忘れません。
私たちにできることを精一杯さがしながら、あなたたちとともに歩きます。
そんな思いを、この本を手にしてくださった皆さまと分かち合いたく、出版の運びとなりました。この旅でお会いした人たちの、照らし示してくださった言葉や、表情や、暮らしぶりを忘れることなく、寄り添い、学び、読んでくださる方がたと思いを共有したいという願いを持っています。
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